ＦＳＪ通信号外１８７

　　　ＦＳＪ通信

　　　　　　　　　　　　第５２号　　２０２０年５月２４日

◇ＦＳＪ２０周年で新たな決意◇　　

日本オリンピック委員会（ＪＯＣ）が、１９８０年モスクワ五輪の政治的ボイコットを決めてから４０年。

モスクワ五輪ボイコットを教訓に、日本スポーツ・ジャーナリズム研究会（ＦＳＪ＝THE　FORUM　FOR　STUDY　OF　SPORTS　JOURNALISM　IN　JAPAN）が設立されて２０周年を迎えた。

ＦＳＪ設立趣意文（ＦＳＪ通信第１号）には、こうある。

「日本オリンピック委員会が分離独立し、財団法人として日本体育協会とは別の歩みを始めた。

それは、従来の政府スポンサー頼りから、財界・企業スポンサーへの傾斜を強める手立てだったが、サマランチ会長率いる国際オリンピック委員会の強引な商業主義導入路線の促進とあいまって、日本スポーツ界に商業主義化の大波を招くものだった。

商業主義化の進展は、多くの競技でプロ選手の創出と新たなプロ興行の誕生を推進したが、スポーツ基盤の弱い日本においては、ＣＭタレントとしてのプロ選手を量産したことが特徴的で、五輪選手の芸能タレント化、使い捨てタレント化も生み出した。

これを営業利益目的で促進したのが、日本的なスポーツ・メディアだったことは否定できない。

テレビ、スポーツ紙、週刊誌、諸雑誌などによる選手のアイドルタレント扱いが進むとともに、スポーツ報道を名乗りながら、スポーツそのものを報道しないスポーツ・メディアが大手を振り、一般紙までもが、この風潮に乗り遅れまいと変節を見せ、こぞってスポーツの営業利用競争にしのぎを削る有様である。

日本におけるスポーツ・ジャーナリズム消滅の危機を迎えていると言えるだろう。」

新型コロナウイルス感染症の感染拡大対策で、世界から、すべてのスポーツが消え、無観客の異常な一部競技会再開はあっても、正常化は、ほど遠い現実の中に、スポーツ・ジャーナリズムはある。

東京五輪・パラリンピックは、異例の１年間の開催延期を決めたが、その見通しは立っていない。

世界と日本のさまざまな競技会再開の見通しも立たない。

草の根スポーツ再建の道筋が見えない。

それらの公的、私的支援策は、五里霧中である。

ウイルス感染の収束とともに、世界と日本のスポーツは、新しい社会状況下で再出発することになるだろう。

スポーツ・ジャーナリズムも、新たな課題を明確にして、進むことになる。

ＦＳＪ２０年の歩みの中で、日本国民は、日本国憲法に基づき、国民のスポーツ権を明示したスポーツ基本法を成立させた。

政府にスポーツ庁が設置され、本格的な国民スポーツ振興策を実施する条件は生まれた。

しかし、国民のスポーツ権を定着させるには、課題山積である。

五輪でのメダル獲得に偏重したスポーツ庁行政は、国民スポーツ全体の発展に背を向けているとしか思えない。

ＪＯＣは、またも政府依存を強め、スポーツ発展の発信を忘れた。

トップ競技者は、プロ化を急速に進めたが、競技生活の不安定さは、さらに増加し、競技者の格差が大きく広がっている。

国民スポーツの環境は、時間的、空間的に劣悪化を強めている。

国民スポーツの条件は、商業主義利用に左右され続けている。

自主、自由、自律のスポーツの原則が、揺らいだままにある。

スポーツ・マスメディアは、国民スポーツ全体の発展を目指す課題を見失い、競技者を商業主義的競争に巻き込み、自らの利益優先に報道を歪めている。

しかも、世界の団結と連帯を軽視する政府に追随して、世界スポーツの発展に背を向けた鎖国的スポーツ利益獲得競争を推進している。

ＦＳＪ２０年の軌跡は、日本のスポーツ・ジャーナリズムが、人類のスポーツ発展の方向性を見出しながらも、スポーツ阻害の劣悪条件を克服できない現実を描き出している。

だからこそ、さらなるＦＳＪの使命は大きい。

改めて、身を引き締めて、人類のスポーツの発展を願いながら、現実を切り開く努力を惜しまないことを決意して、ＦＳＪは進む。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　スポーツジャーナリスト

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大野　晃

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２０年５月２４日記