|
大野晃のラグビー通信 |
|
号外１５４ ２０１２年１２月２２日 |
|
※月刊誌ラグビーマガジンに連載中のコラム「楕円球界定点観測」から、２０１３年２月号（２０１２年１２月２５日発売）に掲載する原稿を転載致します。 大野 晃 |
|
◇スクラム強化が重大課題◇
欧州遠征の日本代表は、ジャパン・フィフティーンとして臨んだ２戦を含め、２勝２敗に終わった。 ルーマニア、グルジア両代表には、苦戦しながらも速い連続攻撃を仕掛け続け、終盤にトライに結びつけて勝ち切る、粘りの試合運びで連勝。 精神的な成長も見せた。 しかしフランスでのバスク選抜にはノートライに抑え込まれ、フレンチ・バーバリアンズとはトライの取り合いで押し切られた。 実力伯仲の欧州の第２グループには勝てるようになったが、６カ国対抗勢には代表でなくても、まだ手が届かない。 国際ラグビー機構のランクで１５位はうなずける。 見逃せないのは、すべての試合を通じて、スクラムで押し込まれて苦戦したことである。 セットプレーを最重視する欧州勢に対し、日本代表は基本的なプレーで圧倒された。 展開重視でスピードとパワーを発揮する南半球勢の影響で、展開つなぎに力点を置いている日本だが、おかげで伝統の基本プレーの徹底がおろそかになってはいまいか。 その問題点は、トップリーグにも共通している。 伝統と実績を持つ３強と神戸製鋼がプレーオフ進出となりそうだが、いずれも昨シーズンまでと比べてスクラムやラインアウトの安定感に乏しい。 とりわけ、スクラムをきちんとした攻撃起点に生かしているケースがほとんどない。 有力外国出身者の突破力や好リードで、連続攻撃や展開力が高まる一方、より防御力が強まって、接戦が多くはなったが、スクラムやラインアウトからの攻撃は単調である。 しっかりボールを保持しながら多彩に攻めることが強く意識されていないように思われる。 何となく危さを感じさせる接戦ではチームプレーの充実度がはかれない。 大学生の試合では、この傾向がより顕著で、しっかりしたスクラムワークを誇るチームが見当たらない。 改めて、スクラムの重要性をとらえ直し、強化の工夫が急務だ。 ２０１５年第８回ワールドカップ（Ｗ杯）の一次リーグ組み合わせが決まり、日本がアジア１位代表になると南アフリカ、サモア、スコットランド、アメリカ２位との対戦となる。 アメリカはカナダと米国の１位争いが予想されるが、実績からいえば２位は米国か。 南半球スタイルとはいえ南アフリカは強力なスクラムに定評があり、スコットランドや米国もスクラムは強い。 この秋の南北対抗戦で米国は、日本が苦戦したルーマニアに３４―３で圧勝している。 サモアもウェールズを２６―１９で破った。 ウェールズはスクラム自慢だから、サモアも強力なスクラムを持っていると予想される。 スクラムが強固でなければ世界トップとは闘えない。 スコットランドは１５―２１でトンガに敗れ、世界を驚かせたが、トンガも地力を高めている。 将来の日本代表の飛躍を目指すには、大学生のスクラム強化に本腰を入れるべきだ。 全国大学選手権のシステムが変わり、ベスト４を目指して二次リーグが争われているが、ベスト８と以下との力の差がありすぎる。 とりわけ関西勢のもろさが際立つ。 防御の甘さとスクラムなどのセットプレーの弱さが著しい。 スクラムやラインアウトのプレーは基本中の基本であり、正しい指導の下で反復練習を繰り返し、プレーヤー自身が工夫しながら自覚的に鍛え込まないと強くはならない。 その何かが欠けているのだろう。 スクラムが弱いとは、ラグビーの原点が弱いことを意味する。 Ｗ杯の度にスクラム強化の必要性がいわれてきた。 世界が成長する中で、いまだに克服する方向が見出せない重大な課題であり続けている。 かつての日本代表ＦＷは、小柄ながらもスクラムの強さが世界の注目を集めたものだった。 大柄にはなったが、日本ＦＷの強化で、大切なものを見失っているのではないか。 日本ラグビー全体で基本の強化を進めなくては、代表チームが強固に育つわけもない。 日本ラグビーの危うさを教える貴重なシーズンである。 ２０１２年１２月１７日記 |
|
|
